はじめに

 

<第1版発刊に際し>

 

この本のテーマは、題名のとおりオーストラリアの牛肉産業です。

オーストラリアの牧場から家庭の食卓までを余すところ無くカバーしたうえ、ここ数十年の産業の歴史までも網羅しています。

 

オーストラリアの牛肉は日本でも認知度が高く、「オージービーフ」としてテレビなどでも非常に有名ですが、不思議なことにオーストラリアにとっては基幹産業であり、日本にとっても重要な牛肉の供給源であるこの産業の成り立ち・状況などを詳しく述べた書物は、日本は勿論オーストラリアでも見かけたことは一度もありません。

 

本書は1995年に食品産業新聞社より「オーズィービーフ・バイブル」として出版されたものをさらに増補したものです。

今回の再版のテーマとして、大幅な増補と書き直しをおこなったことは無論のこと、畜産分野に触れるのが始めての人にもわかりやすいように、出来るだけ丁寧に説明しています。わかりにくい文章での表現は出来るだけ避け、目で見て分かりやすい図表を多用Visual Solutionしました。しかし図表だからといって手を抜いたところはひとつもありません。出来る限りのインフォメーションとオリジナリティーを盛り込んだつもりです。

 

さらにこの産業を深く分析し、著者の30年に及ぶ経験から独自の解釈を施し、その向こうに国としてのオーストラリアとオーストラリア人が見えてくるよう書いたつもりです。一般的な解説書、専門書とは違い、産業のそれぞれの部分部分を徹底的に詳述し、そこから明らかになったオーストラリア独特の産業全体の成り立ちの説明を試みました。

本書はオーストラリアの牛肉産業の入門書であると同時に、食肉・貿易のプロも参照できる内容を備えている一方、オーストラリアという国とこの国の人々をより理解するための手引書であると自負しています。

 

出典については、それぞれ使用したデータソース (主に統計数字) を記してありますが、そのまま使用したものは何一つありません。そのままでは使えないものが多い上、何の解説にもならないからです。データソースを記していないものは、すべて著者の確かな見聞を基にパソコンを駆使しすべてオリジナルで作成したものです。したがいこの本に書いてあることについては、一部のデータソースとなった数値以外、図表を含めすべて著者の責任に帰するものです。

なお一部インフォメーションについては、既に過去の事実となったものもありますが、オーストラリアの食肉産業の歴史の一部としてご参照ください。

 

世界は経済の発展とともに、国際分業化時代を迎えていることは明らかで、このことは世界経済にとって自然過程であり、また不可避な現実なのです。ここ数年日本国内で起きたBSE、口蹄疫などに起因した様々な反応と事例が見られますが、根拠のない国産崇拝主義・絶対主義や、衛生管理が整備されていない中国などからの無節操な農産物の輸入は極力排すべきです。

またこれらの事件は、日本の官僚、政治家、学者がいかに信用できない人たちであるか、さらに彼らは決して消費者の側には立っていないことなどを明らかにしました。

わたしたち消費者・産業人の一人一人が認識を広くし、みずから国内外の産業の実態を徹底的に明らかにしてゆくことが今求められています。産業人も知識・情報を特定の企業・業界の利益のためにだけ独占するのではなく、積極的に消費者に向けて開放すべきであると考えます。

 

このような本を書いた人は今までいませんでしたし、今後もしばらくは現れないと思います。

本書を通じて、心あるより多くの人たちにオーストラリアについて一層の理解と親近感を持ってもらうことが、1消費者であり、1オーストラリアファンでもある著者の本望とするところです。

 

2003929

 

 

 

<改訂版発刊に際し>

 

この本の前身である「オーズィービーフ・バイブル」の発刊から早くも10年以上を経過し、オーストラリアとオーストラリアを取り巻く情勢が大きく変化してきました。

2003年に一般の人にもわかりやすいように大幅に書き直し「ビーフ産業の研究」として発刊しましたが、その後の数年間オーストラリアはこうしたBSEの発生などに対応し、次々と生産・加工・流通にかかわる規格と管理のシステムを整備してきました。

 

オーストラリアの業界の、または日本の業界の偏った立場からではなく、日本の消費者の一人として、この動きを第3者的な立場から的確に把握し、どのように位置付けたらよいのか。

この本を更に書き直す必要が出てきました。

これが今回の改訂の主旨です。

従いこの本には、オーストラリアまたは日本にとって都合の悪いことも隠さずに書いています。

最終的な判断は当然、読むあなたに任されています。

 

2007215

 

フェアリンク

代表 古幡康二

 

 

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