業界のオズィー・イングリッシュ

- Aussie English In The Livestock & Meat Sector -

 

一般的にはGreat Australian Adjective(偉大なるオーストラリアの形容詞)と呼ばれる、あの「ブラッディ(bloody)」とか、「ガッダイ、マイト!(Good Day, Mate!)」などが有名なオーストラリア独特の言回しですが、ここでは食肉業界に見られるオズィーイングリッシュを幾つか集めてみました。

ちなみにブラッディーとは、大阪弁の「ごつい・・」、広島弁の「ぶち・・」、群馬弁の「なから・・」、または若者言葉の「ちょー」に極めて近い意味と使い方をします。

 

オーストラリアでは、どんな田舎町でも町の中心部に「ホテル」がありますが、このホテル(hotel)は通常使われる意味が日本とは違います。これらは日本人には一見「木賃宿」風なホテルなのですが、2階がホテルで、1階が飲屋になっているのです。かつてオーストラリアの禁酒時代にはアルコール(grog)が飲めるのはホテルだけに制限されていました。いまでもその名残りで、我々日本人が言うパブの事を、オーストラリアではホテルというのです。だから”Lets meet at the hotel.”とは、「ホテルで会おうや。」ではなく、「酒場で会おうや。」が正しいのです。

 

仕事の後、常連達が集まる酒場で飛び交うオズィーイングリッシュは、「由緒正しい」英語教育を受けた日本人にはほとんど聞き取れない言語で、筆者も8割方自信を喪失した事があります。

畜産が盛んな町のホテルでは以下のようなオズィー・イングリッシュが無数に使われているはずです。ちなみにホテルで大いに消費されるグロッグはその8割以上がビールで、酒の「おごり合い」シャウト(shout)の習慣は有名です。

 

特に田舎町のホテルは、まず女性の来ることのない「男の世界」で、常連の地元の人達が我々見知らぬ日本人にも親しげに声をかけてきます。ここで二言三言会話を交わせば、一年後だろうが、二年後だろうが相手は必ずあなたの顔と、しかも名前まで憶えていてくれます。興味ある人は以下のオズィーイングリシュを使い是非一回試してみたらいかがでしょうか。

 

ところで、それぞれの単語に付けたカタカナで表現した発音は、必ずしも正しいとは限りません。オーストラリア人によって発音が「上品」な”英国的なcultivated”だったり、一般的な”general”、またはより「大衆的」な”broad”だったりするし、もともと英語と日本語の発音は基本的に違いますから、カタカナで正しく発音を表記する事は不可能です。ここでは、最も多くの人が発音するジェネラル風に「エイ」を「アイ」というように表記してみました。これはあくまで著者の趣味です。

 

なおAussieを 「オージー」とせずに、発音に忠実に「オズィー」としたのには訳があります。まずは一読してください。


 

************

 

ディンゴ・バイト DINGO BAIT

胸骨の体表面側に位置する脂肪の多い部分をいいます。日本では「けしょうあぶら」などといいます。日本向けのポイントエンドブリスケットでは通常除去しています。直訳では「ディンゴ(数千年前アジアから渡豪した野犬)の餌」の意で、それほど価値のない部位のことです。

 

レッド・バーク RED BARK

(たい)幹皮筋(かんひきん)(腹皮筋=CUTANEUS TRUNCI : キューテイニアス・トランカイ)。日本の業界では「かっぱ」、米国ではローズ・ミート(rose meat)などといいます。直訳は「ユーカリ(現地ではガムツリーgumtreeと呼ぶ)の赤い樹皮」。なおこうした極めて薄い肉のことを、お固い言い方では”false lean”(偽の赤身)ともいいます。

 

パディー・ワック PADDY WHACK

頚椎(けいつい)から胸椎頭側にかけて走る(こう)靭帯(じんたい)(LIGAMENTUM NUCHAE : リガメンタム・ヌキ, 「めいたすじ」) のこと。原意は何故か「アイルランド人の分け前」で差別的な用語からきています。日本の一部の地方に煮込み用としての需要があります。

 

スキャブ SCAB

温と体を左右サイドに脊割(せわ)りしたときに内腿(うちもも)の内転筋などが露出し、そのまま冷蔵され乾燥のため黒く変色します。これをSCAB=「かさぶた」と呼びます。枝肉が古くなければ、そのままチルドパックしてもドリップの作用で色は元に戻ります。

 

オイスター・スタイク  OYSTER STEAK

棘下筋(きょっかきん)INFRASPINATUS「みすじ=クロッドの一部)。米国では何故かチキンステイク(chiken steak)といいます。多分肉塊の形状が牡蛎(かき)やチキンのドラムスティックに似ているためと思われます。オイスター・ブレード(oystr blade)とも呼びます。

 

ボーラー・ブレード BOLAR BLADE

クロッドのオイスターステーキを除いた部分です。語源は不明です。


 

セブンボーン・スタイク 7 - BONE STEAK

ボーン・イン(肩甲骨付き)のクロッドをバンドソーで輪切りにし、ステーキにしたもの。断面で肩甲骨本体と肩甲棘(けんこうきょく)が「7」の字状となるためです。

 

スコッチ・フィレット SCOTCH FILLET

キューブロール(cube roll)の別名。大抵の日本人は初めてこの名前を目にするとfillettenderloin(ヒレ→テンダーロイン)と思うでしょう。一部の食肉店とかなり多くのレストランでこの名をみかけます。オーストラリアではテンダーロインにも「FILLET」を使うのだから始末が悪いものです。

 

バッファロー・スタイク BUFFALO STEAK

bison(バイソン=野牛)ではなく、水牛(water buffaloのステーキのことです。オーストラリアの北部ノーザンテリトリーには水牛を処理する食肉工場があります。(C.M.G.など)

 

スモウコウ SMOKO

食肉)工場などの1015分の休憩時間のことです。原意はスモーキングブレイクsmoking breakですが、最近特に1990年以降は全国的な禁煙運動が功を奏し、喫煙者が激減したため、工場の外で一服する光景は少なくなりました。したがいtea-breakの方がより一般的な呼び方となりました。また工場内(屋根の下)は通常全面禁煙ですが、更に敷地内もすべて禁煙とする企業も増えつつあり、規則を破った場合は自宅待機・減給などかなり重い罰則を設けているところすらあります。この言葉、最近は「ティーブレーク」に置き換えられつつあり、近い将来には死語になるかもしれません。

 

チラー CHILLER

(冷蔵枝肉の)(けん)肉室(にくしつ)または冷蔵製品庫のことです。米国ではクーラー(cooler)と呼びます。

 

トーチ TORCH

懸肉室で使う肉質判定用の懐中電灯。米国のようにflash lightとは言いません。チラーアセスメントにはAUS-MEAT開発の特殊なトーチを使わなければなりません。強力な専用バッテリーを使用しており、日本で多く見られるサンヨーのものに比べて3倍以上の明るさがあるので肉色の判定には注意が必要です。(強光線が細胞を貫くので、肉色が浅く見える。)

 

ブッチャーズ・フック BUTCHERS HOOK 

「怒った」「病気の」。原意は「懸肉用のS字環(かん)」。”I Went Butchers Hook.”(おれは怒ったよ。)などという時に使います。

 

モブ MOB

原意は牛、羊などの群れを指します。「人達。やつら。」の意味で使います。

 

スタイション STATION 

大型の牧場・農場。大型の牛の牧場のことはキャトル・ステーション(CATTLE STATIONと言います。

これにたいし規模の小さな牧場・農場をプロパティ(propertyというのです。したがいオーストラリアでは北にはstationが多く、南にはpropertyが多い訳です。なお田舎の大きな屋敷のことをホーム・ステッド(homestead)と呼びます。

 

ファーマー FARMER

農畜産・養殖業従事者のことで、なにも「農家」だけとは限らないのです。だから魚の養殖業者もファーマーですし、また企業経営の牧場もファーマーなのです。特に日本の農協関係の人は注意が肝心です。世界では、日本の農協という組織は一般的ではないのです。

なおオーストラリアには会社勤めのかたわら、土曜・日曜日には肉牛・馬などを家族で世話をする「ホビー・ファーマー(hobby farmers)が多いのです。家族全員で役割を分担して飼育し(子供は牧場の杭のペンキ塗りなど)、売却した牛・馬の代金は家族全員のために使うのが一般的です。

キャトルマン CATTLEMAN

堅く訳すと「牧童」でしょう。オーストラリアでは田舎の少年があこがれる、非常にかっこいい職業の一つです。パッカーなどが雇っているキャトルバイヤーもcattlemanに含まれます。現実には企業内では販売部門のsales managerよりもcattel buyerのほうが重職とみなされる事が多いのです。アメリカではカウボーイcowboyと呼びます。

 

ジャッカ・ルー JACKAROO

牧場で働く経験の浅い若者。女性の場合はジラ・ルー(jillaroo)と呼びます。昔は無給で、日本の丁稚奉公(でっちぼうこう)に似たところがあります。語尾の“-rooとは勿論カンガルーの意味で、通常オーストラリア人はカンガルーのことを単に「ルー」と呼びます。

 

オズィー・バービー AUSSIE BARBIE

オーストラリアン・バーベキュー(Australian Barbecue)のことです。オーストラリア人は自宅の庭、公園、工場などの空き地でこの健康的・牧歌的な鉄板焼きパーティーをするのが大好きです。こうした気軽なパーティーは頻繁に行われ、一般的に食材としては、前菜が生ソーセージ、メインがビーフステーキです。食肉文化の違いと言えばそれまでですが、オーストラリアではこの手軽な「おもてなし」に消費されるビーフの量は非常に多く、無視できないものがあるのです。

なおこうしたオズィーバービー用の「鉄板付かまど」は公園にも備え付けてあり、使用料は無料または極めて安価で誰でも利用できます。しかし最近ではこれがbush fireの原因のひとつになっていることで問題視されてもいます。

 

ところでAUSSIEは、「オージー」ではなく「オズィー」と発音してください。「オージー」の発音に該当するのは”orgy”であり、これでは「乱ちきパーティー」・「乱交パーティー」の意味となってしまいます。英語を使う一般の人から変に思われたくない人は、「オズィー」と発音しましょう。

 

タッカー TUCKER

食肉とは直接関係ありませんが、メシ・食事のことです。takkaとも綴り、原意は「詰め込むもの」。オーストラリアには同名のテイクアウト・チェーンがあります。

 

ビーフ・アップ BEEF UP

増やす。(=increase)

 

ブランビー BRUMBY

生体重200kgにも満たない小型の野生馬。開拓時代に使役用に白人が持込んだのが、その後野生化したものです。大陸中央部に多く、干魃(かんばつ)期などに捕獲しピーターボローPeterboroughの馬肉工場などで輸出用に加工します。

この単語はアボリジニーの言葉からきています。

野生なので大変気が荒く神経質で、現に私の知っている馬肉工場の工場長は、と畜前のブランビーに噛まれ数十針を縫う大怪我をしました。今なお英国の考えの強いオーストラリアでは、馬のと畜に極めて批判的で、王立動物愛護協会などは日夜厳しい目を光らせています。

ちなみにこの工場長の筆者への質問は、「本当に日本人は馬肉を食うのかね?」でした。

これに対する私の返答は、「馬肉を食う日本人の数は、ラムを食う数と同じ位。」というものでした。

これを彼はどうか解釈したのかは分かりませんが。

 

#文書の先頭

<ビーフ産業の研究目次>に戻る