B.   冷と体枝肉

 

1.   チラーアセスメント = 冷と体判定

 

海外市場への依存度がきわめて高いオーストラリアは、国内向けの基準は勿論他各国が要望する様々な基準が存在していました。

それぞれの基準は千差万別であり、これらの基準の共通項を定めるのは難しく、GAQ(Good Average Quality)FAQ(Fair Average Quality)のような温と体の判定以外に、国が定める冷と体判定は存在しませんでした。つまり当時自給率の高い国であるがゆえに、しっかりとした基準の日本の格付け又は米国のNAMP,IMPSに類するものはなく、長い間各パッカーが独自に自社判定・格付けを設定していました。

 

チラーアセスメント(Chiller Assessment)は、我が国の日本格付協会の枝肉格付けを参考にオーストラリアの環境・実態に合わせ作り直して、主に日本向けのチルドビーフの輸出に対応するように1989年頃設定され、その後調整・決定したものです。

チラー(chiller)とは枝肉冷却庫(懸肉室)を指しますが、冷却後チラー内で行なう判定なのでこの呼び方となっています。

後段で述べるように、このチラーアセスメントは、日本向けのみならず国内向け・他国向け輸出用全てに適用される種々格付けの基礎になる重要な規定です。

 

その判定基準は我が国の日本格付協会のものと同様、脂肪交雑(マーブリングmarbling=霜降り=サシ)・脂肪色・肉色(きめ・締りも含む。但しあまり使われない)の判定から成る肉質判定、及び歩留り判定の2つから成っていますが、各々以下のようにオーストラリア独自の改訂を含んだものとなっています。

 

なおチラーアセスメントの前提条件は、前述の標準温と体(Hot Standard Carcass)を18時間以上(電気刺激をしたものは、8時間以上)冷蔵し、基本的にはその第10/第11肋骨間の切断面を判定することです。

第10/第11肋骨間以外の切断・判定も可能ですが、その場合は切断判定箇所を製品などに明記しなければなりません。日本のビーフ輸入割当て時代のチルドカーカス輸入には、第12/第13肋骨間判定が使われました。

 

 チラーアセスメントの肉質判定基準

評価基準

記号

番号

番号の意味

日格協の格付けとの違い

脂肪交雑基準(マーブリング)

MB

(Marbling)

NO.0〜NO.

(10段階)

サシ無〜サシ多

日格協のコピー。日格協はNO.1NO.12 (12段階)

日格協はB.M.S.の略号。

肉色基準

MC 

(Meat Colour)

 

NO.1ANO.

(9段階)

 

淡〜濃

NO.7は色の濃さ上限無制限。19929月に、生産の多いイーリングを考慮し、NO.1を更に細分化してNO.1A, NO.1B, NO.1C(A:淡〜C:)とした。

日格協はB.C.S. NO.1〜NO.7で7段階

ヴィールについては、V1/V2/V3/V4/V5を設定。

脂肪色基準

FC

(Fat Colour)

NO.0NO.

10段階)

純白〜濃黄

NO.0及びNO.8NO.9を追加。マイロ・大麦のグレインフェッド(純白)と、グラスフェッドのカウミート(濃黄)がある為。NO.9は色の濃さ上限無制限。日格協はB.F.S. NO.1NO.7で7段階。

最終pH

Hu

実測値

酸性〜アルカリ性

pHは食感品質を正確に示す指標で、5.7以下が適正。

コブの高さ

HUMP HT

実測値

低〜高

項靭帯の端()から菱形筋(こぶ)の表面までの長さー最長部分。

「きめ」基準

(Texture)

NO.1NO.3

粗い〜標準〜細かい

日格協は、NO.1(粗いもの)〜NO.5(かなり細かいもの)迄の5段階評価。

「しまり」基準

(Firmness)

NO.1NO.3

柔らかい〜標準〜堅い

日格協は、NO.1(劣るもの)〜NO.5(かなり良いもの)迄の5段階評価。

 

*註:        (1)上記以外の主な違いは、日本は各基準を組み合わせた総合評価となっているが、オーストラリアでは各々を分離したままの個別判定(評価ではない)となっていることです。

                (2)その他の違いとしては、日格協には「肉質」の中に「光沢」(NO.15)があり、また「脂肪」の中にも「光沢」、「質」があります。

                (3)「T」(きめ)と「F」(しまり)は実際にはあまり使われません。

                (4)同じく日格協の「瑕疵(かし)」は”あたり”だけでなく、"ズル""シコリ"その他があります。(意図的なビタミンA欠乏飼育の為か。)オーストラリアではとくに旱魃時カウを含むグラスフェッドの場合、生体の長距離輸送が多いため「瑕疵」とは”あたり”を指す確率が極めて高いのです

 

歩留り判定方式の日本との違い

国名

歩留り判定の名称

算出方法

豪州

赤肉歩留り推定方程式(ELMY=Estimated Lean Meat Yield)

歩留り推定(kgs) = 8.68-( 1.338 x 10肋骨部の皮下脂肪の厚さmm ) + ( 0.540 x 丸枝肉の温と体重量 kg ) + ( 0.259 x 10肋骨部の胸最長筋断面積cm2 )

日本

歩留り基準値

歩留り基準値(%) = 67.37 + ( 0.130 x 胸最長筋断面積cm2 ) + (0.667 x バラの厚さcm ) - (0.025 x 左半丸枝肉冷と体重量 kg ) - ( 0.896 x 皮下脂肪の厚さ cm )

*註:以上は、各々第6/第7肋骨間の測定値となっています。

 

日豪間の歩留り判定方式の大きな違いは、日本が割合(%)で出すのに対しオーストラリアは精肉重量(kg)で出すことです。またオーストラリア方式ではバラ肉の厚さを算入していません。

 

また1995年MRCは、以上の数値を光学的に自動測定し、歩留りを即時自動算出する機械と方式VIA (Video Image Analysis) SCANを開発しました。ウルワースWoolworthがブリズミートBrismeat (Ipswitch)で試用しているが、その的中率は7090%ということです。

 

脂肪交雑(マーブリング)に関するオーストラリアの基準(M.B.)は、同一原基(日本製)を使用しているため日本のB.M.S.と基本的には同じで、売手と買手の立場の違いからくる目差しを除けば信用に足る測定方法です。オーストラリア判定基準と米国のクォリティーグレード、更に日本の基準/等級各々の関係については、次の通りと観察されます。これについては人によって大いに見方が分かれており、特にUSDA PrimeUSDA Choiceの境界が日格協格付け評価基準値またはオーストラリアのMBのどれに当たるかについては諸説のあるところです。本表は筆者の経験を基に作成したもので、責任は全て筆者にあります。


 

 豪・米・日の脂肪交雑(マーブリング)基準及び等級の相互関係

 

          ( U S D A )  

豪  州

  (日本格付協会)

 

脂肪交雑度合

(Marbling Degree)

非公式等級

(Unofficial Grade)

公式等級

(US Quality

Grade)*1

(AUS-MEAT)

AUSMB

(サシの量)

脂肪交雑基準

(B.M.S.)

脂肪交雑評価基準 「0」〜「5」

 

等級

 

 

 

 

-

NO.12

 5

 

 

 

 

 

-

NO.11

  

 

 

 

 

 

(NO.9)

NO.10

  

 

Abundant-3

High Us Prime-3

 

(NO. 8)

NO. 9

  

 

 

(豊か)

 

 

(NO. 7)

NO. 8

 2

 

 

 

 

 

NO. 6

NO. 7

  

 

 

 

 

Us Prime

NO. 5

NO. 6

  

 

 

 

 

NO. 4

NO. 5

  

 

 

Moderately Abundant

Average Us Prime

 

 

 

 

 

 

(概ね豊か)

 

 

NO. 3

NO. 4

  

 

 

Slightly Abundant

Low Us Prime

 

NO. 2

NO. 3

  

 

(やや多い)

 

 

 

 

 

 

 

Moderate (適度)

High Us Choice

 

 

 

 

 

 

 

<Top Choice>

Us Choice

NO. 1

NO. 2

  

 

Modest(並)

Average Us Choice

 

 

 

 

 

Small(少量)

Low Us Choice

 

 

 

 

 

 

Slight(わずか)

Good <No Roll>

Us Select

 

 

 

 

 

Traces(か)

-

 

NO. 0

NO. 1

  

 

Practically Devoid

(殆ど無し)

-

Us Standard-2

 

 

 

 

 

 

Devoid (皆無)

-

 

 

 

 

 

 

*註:    1.上記の米国の諸等級は、成熟度(maturity=月齢)がmaturity A,B」にランクされ、概ね42ヵ月「3.歳」未満の牛枝肉に適用される部分(テーブルミートとしての上級部分)のみをUSDAの格付表よりピックアップしたものです。

             2.US standard」より下のグレードとして、成熟度が概ね2.53歳以上の牛枝肉 (maturity C,D,E」にランキング)は脂肪交雑の度合に応じて上からcommercial, utility, cutter (canner)の順に格付されます。

             3.出現率は1%以下ときわめて低い。

 

参考サーティファイド・アンガスビーフ

USDAのものとは別に米国アンガス協会が設定する所謂”CAB”の基準は、以下の通りとなっています。

(1) アンガス又はアンガスクロス(主にアンガス雄x ヘレフォード雌のF1。ジャパニーズイングリッシュの所謂”ミッキーマウス”=英名"black baldies")を生体とします。

(2) 米国アンガス協会US Angus Society)認定のと場で処理。    (3) marbling(サシ)は、modest(並)以上

(4) 月齢:9〜30ヵ月。                                    (5) 歩留り等級(イールド・グレード)  (Yield Grade)3以下

 

肉・脂肪色とくに肉色については、牛種・飼料の違い更には懐中電灯の光源の違い(オーストラリアの特殊トーチは日本のものに比べ約3倍のルクスがあると思われます。)により、日格協のものとの整合性には疑問があります。つまりオーストラリアのほうがかなり明るく見えます。したがい両国の判定を同一視することは危険で、この点取り扱いには注意が必要です。

これらは全て「判定」であり、「評価」とはなっていません。従いグレーディングではありません。

しかしオーストラリアは米国との輸出競合の現状を考慮し脂肪交雑基準を含めた3つの判定基準を基に、次に述べる等級格付けを設定しました。


 

2.   日本向けグレーディング

 

a)      グレインフェッドビーフの最低基準

 

特に日本におけるビーフの輸入自由化以降、グレインフェッドビーフの生産が増大しました。そこでAUS-MEAT19931月上記にあげたチラーアセスメントを土台に、暫定的につぎのようなグレインフェッドビーフの生産と製品に関する最低基準(Feedlot Accreditation)の設定を行いました。これにより、従来のAQISによる輸出規格"Grain Fed Declaration"(所謂「グレインフェッド」と「ロットフェッド」の定義)は発展的に解消することになりました。

さらに19941118日これを改定し、下表の通り、当時オーストラリア唯一の標準格付規格=Minimum Standards for Grainfed Beef(グレインフェッドビーフの最低規格)として確定しました。これには、日本マーケットにおける米国との競合のためと、南米諸国の口蹄疫の解禁に伴う輸出攻勢に対抗する理由付けもありました。

 

(1)     AUS-MEATによるフィードロットの指定(モニタリング)

 

M.E. (Metabolisable Energy)が乾物1Kg当り10MJ(Mega-Joules)以上あることが飼養の前提条件。

さらに199581日よりグレインフェッド(GF)およびグレインフェッド・イーリング(GFYG)の表示をするための条件の一つとして、フィードロットがグレインフェッド牛を生産するためにはFeedlot Industry Accreditation Committeeの認可が必要となりました。この全国フィードロット認定制度(NFAS)により、フィードロットは出荷時以下の必要事項を記載した生牛引渡明細書を提出することになりました。なお家畜商などの仲介業務については、ほぼ同内容の販売仲介申告書提出の義務があります。

l   フィードロット認定番号

l   肥育日数

l   有効期限(フィードロット出荷から7日以内)

 

(2)     枝肉評価 (Chiller Assessment)による分類

枝肉評価による最低基準は次表のとおり。

 

 

飼養条件

永久門歯の数

脂肪厚(P8)

肉色(MC)

脂肪色(FC)

グレインフェッド

GF (Grainfed)

100日以上

6本以下*

7mm以上

A,B,C−3

0−3

グレインフェッド・ヤング

GFYG (Grainfed Young Beef)

70日以上

(60日以上)

-2本

5mm以上

A,B,C−3

0−3

 

*註:   1. *印:または胸椎の一部が硬骨化した枝肉は除く。

2. GFは主に日本・韓国向け。GFYGはオーストラリア国内のホテル・レストラン(HRI)向け(HSCW220270kg)と、スーパー向け(同180220kg)などの国内向けが主に該当します。)GFの国内向けは「GFD」と表記され、GFYGとともに「Purple Brand」と呼ばれる紫色のローリングスタンプをその枝肉の表面脂肪上に押印します。

3. 「グレインフェッド」のカートン表示はしてもしなくてもよい。ただし、肥育日数を「グレインフェッド」の表示と併記する場合は、MB,MC,FCの各スコアを併せ表示しなければなりません。

4. GFの成熟度合(月齢)が永久歯で確認できないときは、胸椎棘突起先端の硬骨化現象が一部であるものを適合の基準とします。

5. 飼養日数のうちの集中肥育期間は各々「GF80日、「GFYG50日となっています。

6. オーストラリア国内のグレインフェッドビーフに対する意見は様々であるが、「価格が高い」「脂ぎっている」「味がない」とする人々も多いのです。


 

b)      VSSボランタリー・スタンダード・システム

 

しかし上で述べた最低基準では複数の等級を持たない為、日本市場における米国産、日本産ビーフとの比較・競合が問題視されていました。そこで1994年AMH社をリーダーとする日本向け主要ビーフパッカー4社(エーエムエイチ AMH, ギルバートソン Gilbertsons, オコナー O'connor, スモーガン Smorgon:後に経営問題で脱退)は、グレインフェッドビーフの最低基準をベースにGF1・2・3(グレンフェッド)、PF1・2(パスチャー=グラス・フェッド)などに細分化する方向性をボランタリー・スタンダード・システム「Voluntary Standards System VSS”」として打ち出し、AMLCの同意を得て実用に踏出しました。

 

新格付設定のもっとも大きな動機としては、前述したように日本マーケットにおける米国産ビーフとの競合対策であるが、米国に比べ生産ロットの小さなオーストラリアの他の中小パッカーが果たしてどこまで同案に同調するのかが、今後同システムの定着を決するものとみられます。

 

システムとしては各参加パッカーの任意によるブランド登録制とし、あくまでもチラーアセスメントのみを採用し、肥育日数等他の格付け要素の勘案については否定しています。

 

同年11月から日本の市場性との互換性検証のためのトライアル・シップが行われました。初期暫定設定は次表の通りで、前述のグレインフェッドビーフの最低基準に比べより細かくなっており、さらにグラスフェッドの格付けも追加しているのが特徴です。

 

19968月からはさらに以下の6社が加わり、同システムの加盟企業数は9社になりました。

ティーズ                       Teys Brothers

サウスバーネット            South Burnett Meatworks Co-operative

キルコイ                       Kilcoy Pastoral Company

メトロ                            Metro Meats

キャストリカム                Castricum Bros.

ラックレー                     Lachley Meats

 

肥育形態

グレインフェッド

パスチャー(グラス)フェッド

等級名

(マークの色)

GF1

(金)

GF2

(赤)

GF3

(黄)

PF1

(青)

PF2

(緑)

脂肪交雑(サシ)(MB)

4以上

2以上

1以上

2以上

0以上

脂肪色(FC)

0−2

0−4

肉色(MC)

1B−2

1B−3

永久門歯数()

0−6

0−6

性別

去勢(steer)/初任牛(heifer)

去勢(steer)

温と体枝肉重量(KG)

290以上

290以上

顧 客 が 追 加 で き る 条 件

牛種

英国種50%以上

英国種75%以上(コブ牛は含まない)

きめ・しまり

日本の規格通り粗いものは除き締まったもの

同左

ロース芯面積

60cm2以上

同左

 


 

3.    国内向けグレーディング

 

 

a)      現行

 

オーストラリア国内向けの規格は下表の通りとなっています。

パープルブランドについては、日本向けショートフェッドとは永久門歯数・穀物肥育日数が、従い枝肉重量が大きく違う事に注目すべきです。因みに日本向けショートフェッドは永久門歯数4−6本、肥育日数100120日が中心となっています。

オーストラリア国内向けビーフの格付け(National Branding Schemeによる)については次表参照ください。

 

ブランド(格付)

パープルブランド

PURPLE BRAND

ゴールド ブランド 

GOLD BRAND

ブロンズ 

BRONZE

肥育形態

AUS-MEATに登録のフィードロットで70日以上の穀物肥育

永久門歯数()

0−2

0−2

3−7

電気刺激

皮下脂肪

充分で平滑

脂肪厚(P8)

mm以上

mm

mm

脂肪色

/クリーム色

/クリーム色

/クリーム色

肉色

鮮紅色

ダークカッティングを除く

ダークカッティングを除く

性別

雌、去勢又は第2次性徴未発現の完全な雄のイヤリング

同左

同左

備考

通常は枝肉重量が200kg以下

同左

同左

 

*註:ゴールドブランドとブロンズブランドはグラスフェッドで、このうちブロンズブランドはめったに使われません。ブランディングする意味がないからです。

パープルブランドの目印としてカーカス上に紫色のロールスタンプが押されます。

スーパーなどではこのスタンプを消費者にたいする高品質の目印とし、スタンプの部分は削り取らずにそのままパックに詰めることが多い。パープルブランドではMIDCO社の「ミドコブラック」などが有名です。

 

ダークカッティング(dark cuttings)とは、ペーハーが異常に高いアルカリ性の、肉色が黒く保水性を失った枝肉のことを言う。と畜前のストレスなどが原因とされます。

 

 

b)      新しい動き

 

1995年MRC(食肉研究公社)は、オーストラリア・フィードロット協会(alfa=Australian Lot Feeders Association)の関連組織であるオーストリア食肉基準会社(Australian Meat Standards P/L)、スーパーのウルワース(Woolworth QLD)などと協力し、以下の試案を打出しました。


 

これは従来のAUSMEATのチラーアセスメントに、コンピュータのハイテク技術と代金決済システムを合体・導入した点で、極めて画期的な試みで充分注目されるべきものです。

以下の新スペックの叩き台を見て、どこが新しいか検証して見ましょう。

 

等級の名称

グルメ・チョイス

gourmet choice

テンダー・チョイス

tender choice

マーケット・チョイス

market choice

月齢

永久歯4本以下、28ヶ月以下、成熟度A

永久歯0−2本

永久歯4本

永久歯4本以下

脂肪交雑(MB NO.)

3以上

2以上

脂肪厚(第10肋骨部)

mm以上

mm以上

mm以上

最終pH

5.3 - 5.7

5.3 - 5.7

5.3 - 5.8

表面脂肪の分布

均一で充分

同左

同左

肉色(MC NO.)

1B−2

1A−2

3以下

脂肪色(FC NO.)

0−2

0−3

0−4

きめ(TEXTURE:1-3)

2又は3

熟成期間

14日以上(真空包装)

同左

同左

第二次性徴のない雄、雌(子牛は除く)

同左

同左

しまり(FIRMNESS:1-3)

コブ牛系血統の混入率

25%未満

50%未満

品質管理状況

加工過程全般

同左

同左

*注:“gourmet choice”と“tender choice”はAustralian Lot Feeders Associationの登録商標です。-19958月MRC, Product Description and Labeling System for the Domestic Market”よりー

 

以上を「叩き台」とし、業界全体に対し最終に提案するまで以下の段階を計画しています。

 

1.       品質保証の可能性のチェック:19962月まで(於:Woolworth QLD

2.       市場での有効性のチェックと規格細部の最終決定:19964月〜19971

3.       実地市場でのテスト期間:19972月〜19978月(6ヶ月間)

4.       業界に対する採用提案:199712月まで

 

本案は未だ試案であり、これに対するコメントを述べるのは早すぎると思われますが、筆者の意見を述べます。

本案には一部業界の利益を代表するような部分があるものの、全体的には本案は消費者のサイドに立った「食味」(eating quality =柔らかさとジューシネス)の観点 (eating quality assurance) で項目設定しているのが明らかです。

さらに「品質管理状況」項目についても、今日世界的な潮流であるP/L法またはHACCP(hazard analysis critical control point)の視点に立ったもので先進性が見られます。

また「きめ(texture)」「しまり(firmness)」など日本の格付けからの明らかな影響も散見されます。


 

第2段階目をほぼ終了した199612月現在、本グレーディングシステムはVIAscan (Video Image Analysis Scanning, 光学的に取込んだ4分体の第10/11肋骨間切断面のロース芯の映像をコンピュータでデジタル化する)の技術を、商業的なチラーアセスメントのデータとリンクさせたソフトを開発し、より迅速で確実な格付けを行おうと言うものに発展して来ました。このシステムは「バリュー・ベイスド・マーケティング ( Value Based Marketing = VBM )」と呼ばれる原料購入決済システムで、19978月までにAUSMEATのモニターを受けながら、ウルワースが完成する計画となっています。19975/6月には、ウルワースの購入先の2ヶ所のフィードロットが新格付け・決済システムの対象となっています。なおVIAscanは既に実験的に、ビクトリア州のエムシー・ハード ( M. C. Herd ) 社クイーンズランド州のブリズミート ( Brismeats )にウルワースによって導入されています。

この段階で改定されたスペックは以下の通りとなっています。

 

等級の名称

ウルワース ‘97・スペック

第二次性徴のない雄、雌(子牛は除く)

枝肉重量 (HSCW)

210 - 270 KGS

月齢

永久歯0 - 2

脂肪厚(P8

5 - 16 mm

脂肪厚(第10肋骨部)

5 - 10 mm

「あたり」 (BRUSING)

なし(相談可)

最終pH

5.3 - 5.9

肉色 ( MC NO. )

1B - 3

脂肪色 ( FC NO. )

0 - 3

脂肪交雑 ( MB NO. )

1 - 3

きめ ( Texture :1-3 )

2 - 3

しまり ( Firmness :1-3 )

2 - 3

グレインフェッドの場合の肥育期間

70日以上

 

またこの国内向け規格は、AMH社が主導している日本向けチルドビーフの任意グレーディングシステムVSS(Voluntary Standards System)との関連についても幾つかの共通点が指摘できます。

 

つまりMRCはこれまでのオズミートと業界の実績をベースとして、海外の有効な方法、世界的な消費傾向や潮流を包含したグレーディングの集大成とでも呼ぶべきものを目指しているのではないでしょうか。

 

また一方ではこのシステムが、現在進行中であるマーケットリンク(MARKETLINK)とどう関ってくるのか大いに興味のあるところです。

 

4.   グレーディングの統合と独自性

 

以上述べてきた、国内向け、日本・韓国向け、アメリカ向け、EU向けなど、オーストラリア独特の様々なマーケットのニーズに対応可能な規格作りは、MRC (MLAに統合)と民間企業の努力でひとつの形を見せ始めました。

 

1999年に、長期的に減少傾向にある国内牛肉消費の回復と、年々厳しくなる牛肉輸出市場における競争力強化を図ることを目的として定められた、オーストラリア牛枝肉評価制度 (ABCAS = Australian Beef Carcass Appraisal System)は、総合的な利点から各々の牛枝肉をランク付け、生産者に対し市場の要求する規格への整合性、精肉歩留り、食肉としての食味度(食感品質)に関する情報をフィードバックするシステムです。評価にはオーストラリア食肉基準MSA = Meat Standard Australiaを用い、品評会や食肉教育活動にも利用されます。

総合的な評価は、以下の各評価を合算したものになっています。

 

「市場性評価」と「精肉歩留り」は、他の国でも一般的な評価項目から成っていますが、その一部の内容はオーストラリアならではのより幅の広い範囲が評価対象となっています。

 

特にオーストラリア独自ともいえる注目すべき評価区分は「食味度」です。

世界で初めての試みといえる、MSAの食味度(eating quality)は、4万2千頭の牛個体から集められた11の主要部位(40の筋肉)をそれぞれ6つの料理方法で調理し、6万2千800名の消費者を対象に、43万9千回の食味実験を行い定式化したものです。

特にこの区分に含まれる以下の評価項目は、オーストラリアの牛肉産業の避けられない現状と、これに対する改善可能な対策と努力を表しています。

 

1.    「硬骨化度 (成熟度)」・「食肉の熟成」:

オーストラリアでは一般的に降水量と遠隔地の問題で、増体重が低いため月令の高い牛が出やすくなっています。硬骨化度を明示することで、生産者の飼養上、出荷時期上の注意を喚起し、現状の既に月令の高い牛は熟成することで市場性を上げられることを意図しています。

 

2.    「熱帯牛 (ブラマン系)血統の混入比率」・「肩コブの高さ」:

既に述べたように、オーストラリアの北部では熱帯牛が多く、その交雑種も非常に多くなっています。熱帯種系が少しずつ増える傾向にある中で、できるだけ増加を抑えようという意図が見えます。

 

3.    「最終pH」:

遠隔地の牛は、干ばつなどの影響で栄養状態が不良な状態があることがあり、また長時間に及ぶ輸送のストレスにより、肉質に影響が出ることがあります。こうしたことを防止する上でもpHの測定が必要となります。

 

4.    「家畜市場」:

オーストラリアでは枝肉市場は無く、家畜市場が伝統的ですが、屠畜用の牛の売買は、出来るだけ市場を通さず食肉工場へ直行するよう推奨していると考えられます。

 

この画期的な評価方法は、日本、アメリカのような画一的な生産方式と生産品が不可能で、様々な種類の牛肉を生産し、それぞれ改善してゆく責務を国際的に負ったオーストラリアでは、必要不可欠な方法であったといえます。


 

牛肉は食品の1種ですが、おいしさは1つではありません。それぞれの牛肉の種類ごとの美味しさがあるはずだからです。また消費者の嗜好性に重点をおいた牛肉の格付け方法であることも非常に注目されます。

 

さらに最終的に、部分肉段階でも格付けできるようにしています。その格付けの基準は、牛肉の食味として最も消費者の要求度の高い肉の「柔らかさ」に応じて3段階に格付けし、それに適した料理方法までも併記しています。部分肉段階の食味品質基準Eating Quality Standard = EQS (またはMSA5〜MSA) として、

 

EQS       : 最上級の柔らかさ (Supreme Tenderness

EQS       : 上級の柔らかさ (Premium Tenderness

EQS       : 柔らかさ保証 (Tenderness Guaranteed

 

の3つに格付けし、基準を満たさない牛肉は規格外としています。

MSAの格付けは、統一の格付けロゴ(商標)が用いられ、食肉処理場、卸売業、小売業およびフードサービス業などがこれを使用する場合には、そのMSAの認定を受ける必要があリ、2006年現在では専門店での普及は目覚しいのですが、スーパーなどの量販店での普及はこれからという状況です。

 

評価区分

評価項目

説明

点数

合計

 

市場性

評価

P8脂肪厚

温屠体のランプのP8部で測定し、出荷者への支払の指標・仕向け先の指標となる。

10

 

 

 

 

 

 

 

 

20

肉色

MC1a〜7。消費者の購買意欲を強く引く要素で、最も受け入れられる1b〜3であることが得点の条件。

外面脂肪

の付着

重要な部位特にランプから背にかけ、薄く均一な表面脂肪が理想的。このことは枝肉冷却温度の緩やかな低下による食味に貢献し、冷却時の水分の蒸散による枝肉重量の減耗を少なくする。付着が不十分、または過度だと減点。過度な付着の注目箇所は、(特にリブ部゙にかけての)皮下脂肪、そして陰曩部、乳房部、リブ部とブリスケット部の筋束間(筋膜)脂肪と内部脂肪である。配点は0〜5点。

5

脂肪色

(減点要因)

枝肉を4分割した部分の筋間脂肪で測定する、脂肪色(FC09)は食味には関係ないが、過度に黄色いもの・軟質なものは販売に影響する。加点はないが、必要があればFC3を超えたものは最大5点まで減点することがある。

-

減点

  指定された重量範囲を外れた場合

  脂肪色がFC3を超える、または指定された色範囲を外れる場合

  2次性徴がある場合(雄)

  永久門歯の規定を外れた場合

  あたり(bruising)、血液の汚れ、注射痕など明らかな欠陥を示す場合

-

精肉

歩留り

リブ部

の脂肪厚

通常10/11または12/13肋骨間の切断面の指定箇所をmmで測定。最低3mmあることが採点条件。

15

 

35

ロース芯

の面積

通常10/11または12/13肋骨間の切断面におけるロース芯の面積(cm2)を枝肉重量との関連で採点。面積が大きいほど高得点。

20

 

 

MSA

食味度

最終pH

鮮度の保持に重要で調理特性、肉色、消費者の評価に関連する。

屠畜後pHは乳酸の増加とともに徐々に下がり、正常値5.45.7になる。ストレスまたは栄養失調があると値は5.7以上のままで、肉色が黒く鮮度保持が悪い。(ガークカッティング) また火の通りが悪く、よく焼いてもパサパサして、ジューシーさがない。5.7以上は採点外。

実測値

 

45

(連結

評価)

 

硬骨化度 (成熟度)

硬骨化度と温屠体枝肉重量の関連で採点。若齢で増体重の大きな牛ほど食味度は高い。胸椎棘突起(フェザーボーン)端の軟骨の硬骨化度合で成熟度を100590の間で測定する。同じ枝肉重量でも、硬骨化度の低い枝肉は高く評価される。部位によって、ランプのように硬骨化度が影響する部位と、みすじ(棘下筋、オイスターブレード)のように影響しない部位がある。またヘファー(未経産メス)は去性に比べ硬骨化が早く、成長ホルモン使用や栄養不足、怪我によっても硬骨化は促進される。測定箇所は、枝肉背割り面の尾部(15仙椎)、腰部(16腰椎)、背部(1〜13胸椎)で測定する。

100-590

 

 

熱帯牛 (ブラマン系)血統の混入比率 (TBC=Tropical Breed Content))

MSAのデータでは、明らかに熱帯牛種は消費者に受け入れられないが、飼養管理・屠畜処理が適正であれば品質の差は小さく出来る。部位別には、ストリップロイン、キューブロール、テンダーロイン、オイスターブレードなど比較的高級部位に影響が大きく、ブリスケット、トップサイド、シルバーサイド、アイラウンド(しきんぼう)など結合繊維の多い部位には影響は少ない。熱帯種比率が100%であっても、月令が若く、皮下脂肪が適正で、処理が良ければ、消費者に受け入れられる。比率は0, 12,18, 25, 38, 50, 75, 100と表現される。

0-100

 

 

肩コブの高さ

交雑種の場合、肩コブの高さがTBCの割合の指標となる。肩コブ(頚菱形筋)を5mm単位で計測する。

mm

(45)

 

 

脂肪交雑 – AUS-MEAT方式

4分割切断面でのロース芯の筋間脂肪(IMF= Intramuscular fat)の状態。それぞれ0.1の単位まで測定。(0.06.9)

ロース芯面のマーブリングの総量を表す。

0-6

 

MSA

食味度)

脂肪交雑 – MSA方式

10単位で測定し、マーブリングの細かさと均一な分布を強調した測定方法で、食味度とより関連している。

100-1190

 

 

性別による食味度の格差は小さいが、部位により格差がある。

/

 

 

リブ部の

表面脂肪厚

4分割切断面のリブ部の表面脂肪厚が最低3mmで、枝肉全体に均一な表面脂肪があること。これにより枝肉の早過ぎるまたは不順な冷却による食味度の悪化を防止できる。また脂肪の多い枝肉はわずかだが食味が良い。

 

-

枝肉懸垂

の方法

テンダーストレッチ懸垂方法は、従来のアキレスケン(AT)懸垂方法より以下の点で長所がある。

  主要な高級部位の殆どで、かなり食味が改善される。

  屠畜後の熟成期間を短縮できる。

  熱帯種の食味の著しい改善。

  成長促進剤(HGP)使用による食味の低下を和らげる。

 

 

 

-

ミルクフェッド

の子牛肉

同じ月令、脂肪厚であれば、離乳した子牛より、離乳していない子牛のほうが食味度は高い。

-

家畜市場

農場から屠場へのダイレクト輸送に比べると、付加的な家畜市場でのストレスが食味度を減じる。

-

食肉の熟成

枝肉または真空包装の部位を0-1℃で21日間熟成すると柔らかくなる。AT懸垂方法の場合、熱帯種の比率が高い場合、HGP処方の場合効果がある。

-

合計

100

 

 

     MSAの食味度の評価は、以下の最低限の評価を必要とする。

1.    リブ部の表面脂肪厚 : 最低3mm

2.    十分で均一な体表面脂肪の分布

3.    H5.7以下

4.    肉色は1b〜3までとする。

 

注:テンダーストレッチtenderstretch懸垂方法 (TS)は右図参照。(MLA資料より)

 

推奨する仕向け先

 

仕向け先

枝肉重量

P8脂肪厚

好ましい脂肪厚

10/11肋骨部

12/13肋骨部

国内向け 軽量

100-180

4-8

4-6

3-6

国内向け 中

180.1-240

6-10

5-8

4-7

国内向け 重量

240.1-300

8-13

6-10

5-9

輸出向け (EU、日本)

300.1-400

12-17

8-13

7-12

 

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