1.
生産コスト
ビーフの生産コストについては、当然ながら各コスト要因は様々な情勢のもと変動し正確な把握は困難です。しかしここでは誤謬を恐れずに、1992年5月現在の豪州北部に於ける日本向けグレインフェッドビーフの生産コストモデルを参考までに掲げておきます。ただこれらはあくまでも参考であり、厳密な意味では正確な数字ではないことを前提に参照されたい。
日本向けグレインフェッドビーフの生産コストモデル
項目
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肥育・と畜条件
の内訳・
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加工の条件
数 値
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コスト
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コ ス ト 内 訳
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A$/頭
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割合
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素牛導入
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生体重
(entry weight)
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400kg
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素牛代
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474
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42%
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肥育
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肥育日数
生体重
(exit weight)
デイリーゲイン
(daily gain)
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150日
600kg
1.33kg
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飼料代 (約A$2/日)
導入肥育管理費 (金利・levy含む)
肥育マージン
小計
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322
93
39
454
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40%
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と畜
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枝肉重量(冷と体)
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330kg (55%)
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と畜経費 (皮鞣し・levy含む)
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58
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5%
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加工
(数値は各々製品重量)
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*皮
*内臓
チルド 12部位 F/S
フローズン副部位6
*牛脂
*骨
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(34kg)
(13kg)
148kg (44.7%)
71kg
(21.6%)
48kgs (14.6%)
63kgs (19.1%)
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ボーニング加工経費
パッキング・冷蔵・冷凍経費(全製品)
小計
(*印:肉以外はクレディットアイテム=credit itemsと呼ばれる。)
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114
33
147
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13%
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素牛・肥育・と畜・加工に関わる総コスト (全製品、パッカー庫前)
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A$1,133
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100%
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2.
食肉工場の豪州と米国との比較
Meat Research Corp.による1992年の調査によると、豪州・米国両国の食肉工場の主な違いは次表のとおりとなっています。(翻訳及び「備考」と「註」は全て筆者が付加した。)
コスト面では米国の方が機械化、更には機械化処理に対応した原料枝肉の標準化が進んでおり、生産コストは製品重量当りA$1.14/kg安くなっています。(但しこれを含めた製品コストは、豪州の方が米国よりA$0.11/kg安い。)A$1.14/kgの35〜40%に当たるコストのセーブは今後の合理化及び近代化で可能であると言われています。
コストの相違の主な理由を以下まとめます。
★ 国内向けのyearlingと米国向けのcowのカーカスウェイトは約200kgと非常に小さく、おのずとkg当りのコストは高くなる。(但し日本向けは300〜450kgとなっている。)生産・消費構造の抜本的変化がない限り、この点での是正は不可能に近い。
★ 豪州の労働費はニュージランドに比べ大分高い。これを裏付ける”tally system”の存在がいま大きな問題となっており、enterprise
bargaining agreementの導入により将来是正の方向に向かっている。(別項参照)
★ 豪州の食肉工場は全体的に老朽化してきているが、新たな工場の建設・最新設備の導入も既に行われており、一時いわれていたニュージランドとの技術格差はほとんど無くなった。しかし工場によっては合理化・省力化が必要な場合も多い。
豪州と米国の食肉工場との比較
項 目
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豪州の一般的な
食肉工場*ー1
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米国の食肉工場
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備 考
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規模
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600頭/日
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1,500頭/日
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豪州では1シフト、米国では2シフトが一般的
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輸出比率
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85%
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10%以下
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米国は世界最大のビーフ消費国である。
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平均枝肉重量
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265kgs
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339kgs
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豪州はグラスフェッド、米国はグレインフェッドが主で、枝肉重量が違うため。
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ボーニング方式
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吊るし捌き
(サイド・クォーターボーニング)
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コンベアテーブル
ボーニング
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従業員一人当り/一日当りの処理頭数
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1.6頭
*ー2
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2.9頭
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機械化の発展度合の違いなど
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従業員の作業中被傷件数(100人当り/1年間)
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130件
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22件
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工場内の職位/職域(work classifications)の数
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66
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7
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「労働関係」の項参照
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一日当りの平均労働時間
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6時間
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7.5時間
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労働賃金算出基礎
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kg当り + tally system
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一時間当り
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豪州の伝統的な職域組合の強さの反映と思われる。1994年tally system否定の動きが出てきた。
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食肉検査員一人当りの
検査頭数
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78頭/1シフト
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300頭/1シフト
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豪州ではDPIの合理化が問題となっている。またAUS-MEATの機能とのオーバーラップも問題化。
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平均在庫日数
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2〜16日
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1.5日
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豪州はフローズン(輸出)が多く、米国はチルド(内需)が主。
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と畜前の係留日数
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24〜48時間
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6時間
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長距離輸送のグラスフェッド(特にカウ)のと畜の為。また王立動物愛護協会の圧力も無視できない。
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冷と体の減耗率
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2.5%
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0.5%以下
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豪州ではspray chill*ー3が許可されていない。
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*註: 1.
豪州の工場は、"South Burnett"(EST 222,Murgon,QLD)が例となっている。
2.
豪州のボーナー1人当り/1日当りの処理等数は畜種及びボーニング方式により異なるが、牛の場合概ね11頭〜18頭となっている。
3.
米国では枝肉に冷水をかけながら冷却する"spray
chill"(water misters)が一般的で、豪州などの"DRY CHILL"よりも歩留りが約2%高いと言われる。しかし一方で同方式は、肉色・締り・シェルフライフ等の品質低下問題の一因となっていると考えられる。
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