A、
消費
1. 赤肉離れと消費傾向
オーストラリアは牛肉の輸出依存度が極めて高い(現在60%以上)国です。それでも国内消費も単体の仕向先別と見ると、国内向けが最大の仕向け先となります。 既に生体の項で述べましたが、国内向けは170〜200kgsの枝肉重量のグラスフェッド・イーリング(grass fed yearling)が国内向け生産の柱となっています。 イーリングは日本向けの枝肉重量が300kgs以上のヘビー・ブロック(heavy bullocks)、米国向けのカウミート(cow meat)とは別物で、著しく生産形態を異にしています。 この点が世界最大の牛肉の生産国にして消費国でもあるアメリカとの最大の違いでしょう。米国における牛肉の生産は基本的にその殆どが国内向けであり、全体から見ればほんの一部である日本向けなどの輸出用は国内向けと全く同じものか、またはこれをベースに追加肥育した牛であるからです。 つまりオーストラリアでは、同じ牛肉とはいえ自国向けと他国向けの商品が著しく違うのです。ここにオーストラリアの牛肉産業の構造的・商業的な問題点があります。したがいオーストラリアでは日本向けの肉塊サイズの大きな精肉用商品ロットは、国内向けや日本以外の国への振替え販売が難しい為、どうしても1頭セット単位での生産・販売にならざるを得ないのです。この結果、オーストラリアからロースなどの単品で輸入するのは難しい基本的な状況となっています。 データソース:ABARE データソース:MLA a) 牛肉・羊肉が減少、鶏肉・豚肉は増大
さて本論の国内消費については、オイルショックの1974年から1979年にかけて海外からの輸出需要が急減した為、価格は下落し1977年の国民一人当たりの消費量は70kgsと際立った増大を記録しました。しかしその後物価が上昇しコストもこれに伴ったため、消費者の赤肉離れが進行し、牛肉の国内消費は年々漸減しています。牛肉価格の上昇に加え、米国同様の消費傾向―鶏肉の増大傾向は鮮明で、その傾向を裏付けるように鶏肉価格の上昇はその他の肉に比べ低く抑えられています。 1994年当時のオーストラリア食肉畜産公社(AMLC、現在MLC)によるアイアン・キャンペーン(iron campaign)は、特に女性に対する鉄分の補給を訴えることで年々低下する牛肉消費量を一時的に食い止め、オーストラリアの1995年の広告賞を授賞しました。 1996年1月以降、米国の牛肉の安定的な増産基調とオーストラリアドル高により、牛肉価格は近年にない暴落を示しました。これに対し国内には、牛肉の価格弾力性による消費量の大幅な回復を期待する声があります。しかし牛肉の消費がいくら回復しても、ホワイトミートへの移行基調を塗り変え、再び40kgの大台にのせることは不可能と思われます。 1998年以降は輸出の増大による輸出価格の高騰により国内価格が上昇し、生産量に対する国内消費量の割合が30%(国民1人当りの消費量30kg近く)に着実に近付いてきています。その代わりに鶏肉の消費が安定的に増えてきており、2005年ついに逆転しました。これは数十年前のアメリカの状況と同じです。 因みに過去の国民一人当りの子牛肉を含む牛肉の消費量<枝肉ベース>の推移は、1960年39kg、 1970年40kg、 1977年70kg、 1980年45kg、 1990年40kg、 2000年38kg、 2004年36kgと極めて少しずつですが、着実に減少しています。 レッドミート(ビーフ・ラムマトン)
↘ ホワイトミート(チキン・ポーク) ↗ 食肉の消費傾向は、その宗主国イギリスからの伝統的な食肉といえる牛肉、特にラム・マトンが減少傾向であるのに対し、鶏肉ははっきりとした増加基調、豚肉は漸増傾向となっています。つまりアメリカ程でないにせよ、ホワイトミート嗜好が大きく進行しています。 下の円グラフで1967年と2008年を比較してみると、この40年余りでオーストラリア人の食生活がドラスチックに変化したのがわかります。すなわち、ラム・マトンの消費が鶏肉消費にほぼ完全に置き換わったことが明白となっています。2005年には、ついに鶏肉が牛肉を超え食肉消費の第一位となりました。この傾向は今後も更に進行するでしょう。 一方全体の食肉消費量が増えたにもかかわらず、牛肉の消費量は着実に減少しています。 また2008年には食肉の全種とも消費量が減少しました。これは引き続く食肉の価格高騰への反動と思われます。
データソース:ABARE 食肉の種類別消費量(単位:kg枝肉ベース)
データソース:MLA なおオーストラリアでは豚肉はテーブルミート(精肉)としての消費は米国と同様に非常に少ないのです。大半はハム・ソーセージに加工され、ここ数年こうした調整品が伸びて来ています。しかしそのほとんどは2,100万の人口を背景とした国内向けである為、豚肉の消費の伸びは近い将来頭打ちになると考えられます。 参考までにオーストラリアの豚肉から作られるベーコンは、イギリスと同じように、小型の枝肉を原料とした皮付き、ロース芯付きのいわゆる「サイド・ベーコン」が大半です。こうしたより若齢での豚のと畜時期が一般的である為、通常雄豚の去勢は行いません。このほうが「増体重」が大きく、飼料効率が良いからです。 参考:主要国の牛肉消費量 以下は2000年の世界の主要国での牛肉の国民一人当たりの消費量です。単位は枝肉重量換算kgです。 南米、北米、大洋州、ヨーロッパなど牛肉の生産量が多い国は、一人当たりの消費量も比例して大きくなっています。日本など牛肉の消費量の少ない先進国は、魚介類やホワイトミート(豚肉、鶏肉)などの他の動物タンパクの消費が大きくなっています。
データソース:USDA b) グレインフェッド・ビーフの消費増大
前にも述べましたように、オーストラリア国内ではグラスフェッド・イーリング・ビーフが伝統的に国内消費の柱となっていました。しかしグレインフェッド(grain fed穀物肥育)ビーフが、ここ20年の間に少しずつシドニー、メルボルンなどの大都市を中心に伸びてきています。国内向けの穀物肥育日数は別項が示すように最低70日となっており、通常は70〜80日のケースが多くなっています。枝肉重量(HSCW)はより一般的なグラスフェッド・イーリングの150-170kgsよりやや重い170-210kgsとなっていますが、それでも日本向けの300kg以上の枝肉より2回り小さなものが大半です。オーストラリアでは日本のようにスライサーを使用しないので、ステーキ(厚切り)の状態でより柔らかな食肉を求める傾向が現われています。 c) 牛肉の国内消費と州別の輸出依存度の関連
データソース: 2. 小売業と消費形態
a)
小売業界の概要
1993年のスーパーマーケットと食肉専門店(肉屋さん)別の食肉全販売における全国平均シェアは前者が43.1%、後者が56.9%となっています。スーパーマーケットのシェアが年毎に少しずつ向上しており、1995年にはスーパーマーケットの全国平均シェアがほぼ45%となりました。その後2008年のMLAの統計では、テーブルミートの販売はスーパーマーケットが全体の約2/3を占め残りが専門店などとなっています。 スーパーマーケットは年間約35万トンの牛肉・ラム・ヴィール・ポークを買い入れており、なかでもコールズ(Coles:Myer含む)、ウルワース(Woolworths、通称”Woolies”)2社はこれらの中でも群を抜いた数量を扱っています。(第3位はフランクリンズFranklins) なお外食産業で消費する量は全体の約3割となっています。 (1)
ウルワース(Woolworths)の概要
インテグレーション 特にウルワースは、自らキャトルバイヤーを擁し、フィードロットと食肉パッカーとに対し大量の肥育牛と牛肉を委託生産させています。つまり卸商を通さず直接購入の方式をとっており、日本の昔のダイエーに似ていないこともありません。 同社は過去5年間で売上がほぼ倍増しているオーストラリア最大の食肉小売業で、各州に自らの食肉加工センターを持っています。クイーンズランド州ではイプスウィッチに州立のQAC(Queensland Abattoir Corporation)の施設を借りて、「Brismeat」という名前で集配加工を行っています。年間約500,000頭の牛を購入し、クイーンズランド州内の全スーパーの食肉販売の46%のシェアを持っています。これは同州内の全赤肉(total red meat)販売のシェアでは18%に当たります。 2008年には同社の生鮮牛肉販売シェアは、全スーパーマーケットの約半分を占めるに至りました。 食肉販売の概要 精肉(鶏肉除く)部門への1週間当たりの来客数は約40万人で、最も売れる商品はビーフ100%の挽き肉のbeef diet mince (95CL)で、年間売上は12百万豪ドルとなっています。 以下に同スーパーの販売品目別の内訳を示します。第4位の生ソーセージはオーストラリア名物の野外バーベキューの前菜としてごく一般的に使われるものです。勿論メインディッシュは第1位のビーフで、ほとんどの場合ステーキとして消費されます。なおこの野外バーベキュー(Australian Barbecue)は個人の庭先、公園などで極めて頻繁に行われており、その消費量は決して無視できないものがあります。 1. ビーフ(成牛肉) :43.4% 2. ラム :18.0% 3. ポーク :10.6% 4. 生ソーセージ : 9.6% 5. チキン : 8.2% 6. ハム・ソーセージ : 7.5% 7. ヴィール(子牛肉) : 1.5% 8. マトン(成羊肉) :
1.2% また同社の公開データによると消費者の1人当たりの食肉購入状況は以下の通りです。 l 来店数は週2.3回 l 一回当たりの購入量は2.4パックで、金額ではA$10.80 l 年間購入金額はA$1,292 (2) コールズ(COLES)の概要
一方業界第2位のコールズは主にベンダー(vendor食肉卸売業者)からビーフを仕入れていますが、オーストラリアン・カントリー・チョイス社(Australian Country Choice Co.)はその代表的なもので、同社はキャノンヒルでの操業に加え、1996年7月ビーフランズ社(Beeflands)からクーミニア(Coominya)工場を買収。1997年からはオーストラリアマクドナルド向けにハンバーガーパティーの供給を開始するなど、勢力を拡大しています。 b)
スーパーマーケットでの消費者動向
ASI(Australian Supermarket Institute)は、オーストラリアのスーパー業の協会で、コールズ・マイヤーColes Myer Ltd., デイビッドDavids Ltd., フードランドFoodland Associated Ltd., フランクリンズFranklins
Ltd., ジュウェルフードJewel Food Stores Ltd., ウルワースWoolworth Ltd.の最大手5社がメンバーとなっています。この5社で約5,500の店舗を持ち、オーストラリアの全スーパーマーケット売上の約95%のシェアを誇っています。 1996年のASIによる1,000人への電話聞き取り調査によると、オーストラリアの消費者のスーパーマーケットでの消費行動と要望は、以下のとおりとなっています。
1996年ASI l 消費者の中で最も多いのは女性で、平均年齢は40才。 l 木曜・土曜日の買い物は減る傾向にあり、曜日を選ばない傾向が強くなっています。(1994年16%→1996年21%) l 買い物の回数は半数以上の人が週1回で済ましており、日本のように日用品の買い物に時間をかけていません。 l 買い物の時間帯については午前中が最も多く、午後5時に集中する日本とは違っています。オーストラリア人は往々にして朝起きの人種であり、特に現場労働者は午後3時には仕事を終えて、これ以降は家庭の雑事を行うのが一般的です。(デスクワーカーは5時まで仕事。) l 消費者の関心事は、日本と同じく病原性大腸菌(オーストラリアでは0ー111)が発生した事から、安全性、それも病害菌への心配が最も高率で73%となっています。 l スーパーに望む事としては、のんびりしたお国柄としては意外な、「レジの時間の短縮化」が18%と最高位となっています。 c)
牛肉の購買部位
次にシドニー、メルボルンのある食肉専門店でのビーフの部位別構成比と価格は以下の通りです。この数字は今後も大きく変化することはないでしょう。 食肉店における牛肉のアイテム別構成比(1992年夏・冬平均)
d)
食肉の部位別小売価格
以下に、2008年3月時点でのシドニーにおける小売価格を示します。 価格@は豪州ドル/キログラム当り、Aは円換算(¥80/A$)/100グラム当りとなっています。
同じく2008年11月シドニー小売店での価格は以下の通りです。
注:スコッチフィレット=キューブロール、 為替は80円/豪州ドルで計算 e)
家庭での調理方法
オーストラリアの家庭における調理方法は右の通りです。
また「焼く」の中には、かなりの戸外バーベキュー(Australian Barbecue =Aussie
Barbie)が含まれており、大抵の家庭の庭には大型のバーベキュー設備があり、そこで家族や親しい人と集まって食事をするのが年中行事になっています。 なお肉を焼くのは亭主の係で、奥さんはサラダやデザートを担当します。通常後片付けは亭主と子供たちが行います。 ややフォーマルなバーベキューを来賓を自宅に招き行う場合は、亭主がせっせと肉を焼く間、奥様はイブニングドレスでワイングラスを片手に来客と歓談するのが、オーストラリア式なのです。 |