A.      はじめに (ビーフの分類)

 

 

ビーフの生産がどうなっているかを知る前に、まずどんなビーフがあるのかを知る必要があります。

前章で既に生体の分類と説明を行いましたので、食肉としてのビーフの分類も大分判り易いと思います。

ここでは初歩的・実際的な理解のために、一般的な商習慣に沿った方法で分類しています。正式な分類、厳密な分類については「AUS-MEAT」の章を参照してください。

ビーフは以下の生体、肥育、加工の3つの特性から分類できます。現実にはそれぞれの特性を組合わせたものが実際の商品スペックとなっています。

 

1.   生体の分類によるもの

 

a)     月齢(年齢)と枝肉重量による分類

 

例えばヴィール(VEAL, 子牛肉)、スティア(STEER, 去勢牛)、カウ(COW, 2産以上のメス牛)などに分類されています。

 

ヴィール (veal子牛肉)

 

若い方が肉はより柔らかく、精肉歩留り(1頭から取れる肉の量)が低いため、価格は高くなっています。オーストラリアを含む西洋文化圏では、特にヴィールとその他のビーフは厳密に区別されています。オーストラリアではヴィールは月齢18ヶ月以下(永久門歯ゼロ)で、枝肉重量が150kg以下のオスとメス牛の両方の肉を指します。第2次性徴が現れておらず肉質には全く影響がないので、オス・メスの区別はありません。

 

イーリング (yearling当歳牛)

 

月齢18ヶ月以下(永久門歯ゼロ)で枝肉重量が150kg以上のものを、イーリング(yearling当歳牛)と呼び、これがオーストラリアの国内向けの中心となっています。ヴィールと同様、ほとんど第2次性徴が現れておらず肉質には全く影響がないので、オス・メスの区別はありません。

そのほとんどが伝統的な牧草肥育による枝肉重量が180kg前後の牛肉ですが、最近では短期間穀物肥育した(ショートフェッド:約80日前後)枝肉重量が200kg位のものも出回っています。これらは主にウルワース(Woolworth)コールズ(Coles)などの大手スーパーマーケット用に肥育・製品加工されます。


 

スティア (steer去勢牛)

 

オスを早期に去勢したものです。日本が輸入している精肉用牛肉のほとんどはスティアで、それも月齢3才以上で枝肉重量が約270kg以上の大型のもの(Heavy Bullocks, Japan Ox)を使っています。これは一定の月齢以上にならないと一般的な日本人の好む脂肪交雑(霜降り、サシ、marbling)が入りづらいためと、日本の国産牛肉(乳オス)の肉質に匹敵する十分な切断面のサイズを得るためです。特に日本向けにグレインフェッド(穀物肥育)した牛肉は枝肉重量が330kgs400kgs以上もあります。しかし月齢が高すぎると、肉は硬くなり肉色も濃くなり、消費者の「受け」が悪くなります。オーストラリア国内ではこうした牛肉は主に加工用に使用されます。

 

これより小さなスティアは、主に国内向けやフィードロットの素牛用に売買され、Trade Steer (330-400kgs)Medium Steer (400-500 kgs)と呼ばれます。

 

 

b)     性別による分類

 

オスであれば第2次成長の発現、去性の有無、メスであれば仔取りの有無などが肉質の評価に重要なポイントとなります。

 

ヘファー(heifer初妊牛)

 

若令メスであるヘファー(heifer初妊牛)は、通常仔取りのため繁殖牧場で再生産用にストックされます。筋繊維が細かく柔らかい肉質なのですが、肥育効率(増体率)が低いので、通常はほとんど食肉用には出荷されず、仔取り用にホールドされる訳です。従いテーブルミート(精肉)用のビーフは、そのほとんどがスティア(steer去勢牛)からのものです。

 

カウミート (cow meat繁殖めす牛)

 

カウミート(cow meat)は仔取り能力に欠けた、または生後5〜7年間繁殖のために使用し、その後繁殖能力を失ったメス牛を原料としたものです。脂肪は少ないのですが赤身が多く硬いため、一般的には主にハンバーガー用の加工牛肉として冷凍したものが、定貫カートン入りで生産されます。オーストラリアからはアメリカ、日本向けに大量のカウミートが毎年輸出されています。カウミートの前半部位(フォアfore)と後半部位(ハインドhind)をブレンドしたものをフォア・アンド・ハインドビーフ(fore and hind beef)と呼びます。赤肉の率が大きいのがこの商品の命ですから、通常80〜90ケミカルリーン(CL)のものが生産・取引されます。アメリカは最大の牛肉生産・消費国ですから、アメリカ向け輸出の大部分はカウミートです。

 

ブルビーフ(bull beef繁殖おす牛)

 

やや特殊な肉として、ブルビーフ(bull beef)があります。繁殖オスとしての使命を7〜10年で終えた種オス牛(Bull)を原料として使用します。主に90CL以上の挽材(ひきざい)として利用しますが、筋繊維が強いため保水性に優れ、混ぜ物にする際には高い混合率が期待できますが、肉色が非常に濃いためテーブルミート用としては不向きです。なおオックスOxとは一般的には去性牛を意味し、大体においてスティアSteerと同じです。


 

2.   肥育の分類によるもの

 

a)     グラスフェッド (牧草肥育grass fed)

 

牧草による肥育をしたもの:グラスフェッド(grass fed)とパスチャーフェッド(pasture fed)があります。後者は、秋に実を付ける特定の牧草を主な餌にして肉の表面脂肪をより白くする位の意味で、本質的には前者と大きな違いはありません。つまり牧草に関しては。給餌に関する公式の定義は無いことを認識したほうが良いと思います。

 

b)     グレインフェッド (穀物肥育grain fed

 

穀物肥育:通常日本向けには約2才までは牧草肥育で飼い、それから乾燥に強いマイロ(ソルガムsorghum)、 大麦などで穀物肥育(グレインフェッドgrain feeding)する例が多くなっています。

 

業界では一般に肥育期間により、概ね以下のように分類しています。

(1)    ショートフェッドshort fed         :国内向け=GFYG80日、日本向け100120
(2)    ミドルフェッドmiddle fed          :日本向け約130200
(3)    ロングフェッドlong fed            :日本向け200日以上
 
これは公的に正式に認められたクラス分けではありません。実際はパッカーにより肥育期間と呼び方はまちまちなので、注意する必要があります。

 

また本格的に穀物肥育をする前に、牧草と穀物を短期間ミックスして給餌する事をバック・グラウンディング(back grounding)と言います。

こうすると肥育の仕上げ時には、比較的マーブリング(marbling、脂肪交雑=霜降り)の多い、個体差の少ない均一な商品に仕上がります。

前章で述べたように、グレインフェッドビーフの品質は、肥育素牛(feeder steer)の品質で決定されることが多いからです。

 

3.   加工(貯蔵・輸送状態)の分類によるもの

 

a)     冷蔵 (チルドchilled)

 

通常1頭分の各部位を自然構成比率で組合わせたフルセット(full set)は、より付加価値の高いチルド状態で輸送されます。チルドとは牛肉が凍らないで冷えた状態のことを言い、0℃前後(-2+3℃)での保管・輸送を指します。

なお海上輸送のコンテナ設定温度は通常0℃となっていますが、日本の夏期に合わせ-1℃に設定することも可能です。しかしこれ以下に設定することは、航海日数、コンテナ内の空気の循環、サーモスタットの能力、初期温度設定の確実性を考慮すると、かなり危険な設定と考えなければいけません。

 

b)     冷凍 (フローズンfrozen)

 

一方カウミートなど価格が安く長期間貯蔵するものはフローズンで輸送されます。通常ブラストフリーザー(blast freezer強制低温通風)で、肉芯温度が-25-35℃になるよう短時間で冷凍します。このとき-3-5℃の「最大氷結晶生成温度帯」をなるべく早く通過し、温度を下げることが重要で、これが出来ないと所謂「緩慢(かんまん)凍結」となり、解凍後にはドリップ(dripweep肉汁)の多い、締りのない肉になってしまいます。カートンのまま冷凍する場合は、カートン間の通風が非常に重要です。

オーストラリアではこのブラストフリーザーが一般的ですが、作業の自動化・省力化のため自動のプレートフリーザー(plate freezer)を導入しているパッカーもあります。熱伝導の仕方が基本的に違うため、商品の特性を把握してから、どちらかを選択すべきです。この他、一部に窒素などの液体凍結装置(liquid freezerIQF)を導入している食肉加工企業もあります。

 

c)     熟成後冷凍 (エージド・フローズンaged frozen)

 

またC級の冷蔵倉庫でチルド状態で2〜4週間低温熟成させた後、急速冷凍(quick frozen)することを、エージド・フローズン(aged frozen)と言います。

 

d)     「チルフロ」 (和製英語)

 

さらに、輸入後チルド状態のものが売れ残り、必然的に2〜4週間経過してから(通常製造から50日経過したもの)冷凍せざるを得なかったものは、チルド&フローズン(通称「チルフロ」)と呼び、業界ではエージド・フローズンとは区別しています。

国内での凍結も、単にF級倉庫に入れるだけの緩慢凍結と、専用凍結庫を使用した急速凍結があるので注意が必要です。

 

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